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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)222号 判決 1964年3月19日

荒井公平

右訴訟代理人弁理士

中島信一

被告

田丸道夫

右訴訟代理人弁理士

吉村庄吉

吉村悟

主文

昭和三二年審判第一一八号事件につき、昭和三七年一一月一六日特許庁がした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、請求及び答弁の趣旨

原告は主文同旨の判決を求め、被告は請求棄却の判決を求めた。

第二、原告の請求の原因

一、原告は登録第四九六、七一八号商標(以下本件商標という。)の商標権者であつて、この商標は「三国一」の文字を縦書してこれに「さんこくいち」と小さく振仮名してあり、昭和三〇年一二月二日訴外八木隆治が旧類別(大正一〇年一二月一七日農商務省令第三六号商標法施行規則第一五条所定)の第四三類菓子及び麺麭の類を指定商品として出願し、昭和三二年二月二三日登録を受けた後、同年四月二〇日指定商品中「餠及びその類似商品」につき権利の一部の放棄をして同年五月二〇日その登録を経たもので、原告は昭和三三年九月一〇日右八木からこれを譲り受け取得したものである。

二、然るところ被告は、本件商標につき、その登録前存続期間満了によつて消滅していた旧第四三類餠を指定商標とする登録第二八〇、八四七号商標(以下第一商標という。)及び「餠、あんころ、団子、チマキ」を除く旧第四三類菓子及び麺麭の類を指定商品とする登録第二七四、六三〇号商標(以下第二商標という。)を引用し旧商標法(大正一〇年法律第九九号、以下商標法または法という。)二条一項一〇号違反を理由として、昭和三二年三月一八日特許庁に無効審判の請求(同年審判第一一八号事件)をした。

三、特許庁昭和三七年一一月一六日右事件につき、第一商標にかかる請求について、「本件商標がその登録当時において上記引用商標(第一商標を指す。)と指定商品が相牴触しているものであることは明らか」であり、「被請求人は本件審判請求後において、本件商標の指定商品中餠およびその類似商品について権利を放棄しているけれども、本件商標が登録された時期において両商標の指定商品が相牴触しており、また今日における取引の実状に照らし餠は菓子及び麺麭類に属する総ての商品と生産者および販売者を共通にするものであると解さざるを得ず」とし、右「両商標が相類似する商標」であつて第一商標の「登録の失効の日より一年を経過しない期間内において本件商標が登録せられたものである」とし、なお原告の、本件商標の登録が法二条一項一〇号但書の規定に該当する旨の主張については「被請求人の主張するところによつてはその事実を認め得ないし、何等の証拠も提出されていないから被請求人のこの点に関する抗弁は認め得ない」として排斥し、結局本件商標の登録は法二条一項一〇号に違反してなされたものであつて法第一六条一項によりこれを無効とすべき旨審決し、原告は同年一二月三日審決書の謄本の送達を受けた。

四、右審決は次の諸点において違法である。

(1)  本件商標は登録時において旧第四三類菓子及び麺麭の類全部を指定商品とするものであつたにせよ、その後審決前に指定商品の一部たる「餠及びその類似商品」につき権利放棄がなされその登録を経たこと前記の如くであつて、審決時においては餠のみを指定商品とする第一商標との間に指定商品の類似の関係は消失していたのであるから、本件商標の登録は適法、有効たるに至つたものとなすべきである。

(2)  本件商標の登録は法二条一項一〇号但書の場合に該当し、適法かつ有効である。

すなわち、第一商標は餠のみを指定商品とするものであつたところ、被告はこの商標を、登録失効前の一年も含めてそれが昭和三一年九月二日存続期間満了によつて消滅するに至るまでの間、かつてその指定商品たる餠に使用したことはない(もともと被告は商品として餠を製造販売したことがないのである。)。被告が「三国一」なる商標を表示して販売して来たのは求肥団子だけであつて、餠と求肥団子とは異種の商品であるから求肥団子に商標を使用したことは餠にこれを使用したことにはならないと共に、被告が求肥団子に使用して来た商標は右の如く「三国一」であるのに対し第一商標は三国一(サンコクイチ)の構成からなるのであるから、被告の右使用商標は第一商標の類似商標ではあるが第一商標そのものではないのであり、結局被告は第一商標と類似の商標をその指定商品と類似の商品に使用した事実はあるが、第一商標の存続全期間を通じてこれをその指定商品そのものに使用した事実はなかつたのであるから、本件商標の登録は前記但書の場合に該当する。

(3)  餠のみを指定商品とする第一商標によつて餠及びその類似商品以外の指定商品についてまで本件商標の登録が無効とさるべき理由はない。

この点につき審決は、前記の如く両商標の指定商品が本件商標の登録時において「相牴触する」としているが牴触することに問題がないのは餠の部分に限らるべきであり、また「今日における取引の実状に照らし餠は菓子及び麺麭類に属する総ての商品と生産者及び販売者と共通にするものである」との理由で餠以外の菓子及び麺麭類の商品との類似性を肯認しているのであるが、登録時でない「今日における取引の実情」を基準にしたのは判断の時点を誤つたものというべく、また餠以外の右商品が常に生産者及び販売者を共通にするとはいえないのみならずそもそもこれらを共通にするという事実だけで両者の商品の類似性を肯定するのは誤りで、商品の類似性の認定は後記(イ)ないし(ハ)の標準によつてなさるべきであり、しかるときは菓子及び麺麭類の商品のなかには餠と類似の商品もあるがそうでないものも多数存するのであるから、審決が餠及びその類似商品以外の本件商標の指定商品についてまで本件商標の登録を無効としたのは違法である。ところで商標法上類似の商品という場合これを決するには次の原則、標準によるべきである。

(イ) 商標の類似が商品とは無関係な商標自体の比較の問題であると同様、商品のの類似は商標とは無関係な商品それ自体の比較の問題であつて、使用された商標を媒体としてこれを決すべきではない。審決例には「両商品に同一または類似の商標を付して販売に供した場合に、商品の出所の混同を生ずるような場合は、その両商品は類似の商品というべきである」とするものがあるが、出所の混同の問題に関する限り、専ら商標の作用、すなわち付された商標が同一または類似であるからによるのであつて、商品が類似であるからによるわけではないのであり、ひつきよう、かかる説明は商標の類似と商品の類似とを混同したもの、否後者を前者にすりかえたものであるばかりでなく、法二条一項一一号の規定する商品の誤認、混同の問題と同八号ないし一〇号の規定する商品の類似の問題とを混同したものというべきである。

(ロ) 法においてそれぞれの場合に「類似の商品」の語が使われている目的に従うことを要すべく、そして法二条一項八号ないし一〇号においては、これら規定の目標とする先行ないし既得権利者の私的利益の保護ということのため、権利保護の防護線を画する用語としてそれが使用されていることを注意せねばならない。以下右九号の規定を例に解明すれば次の如くである。

元来商標専用権は、出願の際出願人が自ら任意に定めた指定商品の範囲に限り認められること法第七条の明定するところであり、これを前提とする九号の規定は、権利保護の本体、本来の保護範囲たる指定商品の範囲から逸脱して指定外なる類似の商品にまで拡大して指定に係る範囲を防護してやろうという規定にほかならないのであつて、かように権利保護の本体たる指定商品を防衛するためにその周囲に設けられた防護地帯が右九号にいう類似の商品なのである。従つて甲商品に対して乙商品を以て類似の商品となすべきや否やについては、これを類似としなければ甲商品に対する本来の保護が危傷せられてその目的を達し難きに至るような密接した非共存的事情が両者間に存するか否か、約言すれば乙商品の売出のために甲商品の商売に直接影響を与えるような相当因果関係が認められるか否かが専ら判断の基本となるべきこと事理の当然であることころ、かような果因関係は、商品自体に内在する諸条件、すなわち商品自体の製法、性質、外観、用途用法等が共通していて彼此完全な代替性を有する場合でなければあり得ないことであるから、結局商品の類似は商品自体に内在する完全なる代替性の有無によつて決せらるべきである。製造者の共通性の如き商品の外在事情の比較考量のみによつてこれを断定するが如きは、前記法の精神にそわないものといわねばならない。

(ハ) 次に法二条一項九号または一〇号と同第一一号の各規定の性格の差を明らかに認識せねばならぬ。

すなわち前者は専ら当該先行者の私益保護を目的とするのに対し、後者は一般大衆の利益を守るための公益的規定であり、従つて前者における商品の類似を認定するには、一般大衆に対する面は考慮すべき限りでなく、この面を考慮しなければならない場合はもはや前者の商品の類似の関する問題ではなく、後者の問題なのである。他面前者の商品の類似は商品自体の内在条件に着目した規定であるのに対し、後者の商品の誤認、混同は商品の出所すなわち営業主体という商品の外在条件に着目した規定である。この区別からすれば製造者及び販売者を共通にするというような商品の外在事情のみを理由としてその類似性を断定するのは明らかに誤りである。

審決の違法なこと前記のとおりであるからここにその取消を求めるため本訴に及ぶ。

第三、被告の答弁及び主張

一、請求原因第一、二項の事実及び第三項のうち特許庁が原告主張の日、主張の如き内容の審決をしたことは認める。被告の引用した第一商標は「三国一」の文字を活字体で縦書しその右側に「サンコクイチ」と小さく振仮名しており、昭和一一年九月二日旧第四三類餠を指定商品として登録され、昭和三一年九月二日存続期間の満了によつて消滅したものである。

二、同第四項(1)について。

本件商標につきその登録後に指定商品中「餠及びその類似商品」につきその権利の放棄がなされたからといつて、これにより菓子及麺麭の類全部を指定商品として右商標が第一商標の登録失効後一年を経過しないうちに登録されたという事実が解消されるものでもなければ、またこれによつて当初の登録の日に変更を来すべき理由もないのであつて、結局原告主張の放棄によつて両商標における指定商品牴触の関係が全面的に消滅し去つたことにはならないから、原告の主張は失当である。

同第四項(2)について。

原告は、被告が「三国一」の商標を使用した商品は餠ではなく求肥団子であり、両者は異種であると主張しているが、糯米をむし、臼でついて作つた餠は短時日で表面が硬化したりかびを生じ易く保存上不便なために、原料は同様糯米を用い製造工程において時間的不利はあるが、求肥にした方が餠であつても味は菓子に近似しながもちするわけで、かようにして作つた求肥なるものは、しいて理届をいえば、原告主張の如く求肥団子というのが正確であるかどうかは別として、ことさら求肥餠、求肥団子等といわないで餠、団子等と称して用いられているというのが一般の取引界における常識であつて、求肥は取引上餠の一種であることはいうまでもないのである。また原告は、被告は第一商標そのものを使用したのでなく類似商標を使用していたのにすぎない旨主張するが、三国一(サンコクイチ)なる第一商標におけるが如く漢子に振仮名してなる商標について、その漢字の部分のみを商標として使用するというのは、社会一般の取引の実状からすれば極めて広く慣行されているところであつて、かかる使用も商標そのものの使用というべく、これを類似商標の使用であるとするのが如きは取引の実情を無視するものといわねばならぬ。この趣旨は法一四条一項一号の規定のおわりに「連合ノ商標中其ノ一ヲ使用シタルトキハ此ノ限ニ在ラス」とあるのによつても容易に是認されることである。すなわち、第一商標について被告は類似商標を類似商品に使用したものではなく、右商標そのものに使用したものというべく、法二条一項一〇号但書が適用せらるべき旨の原告の主張は理由がない。

同第四項(3)について。

商品の類似については、(い)原材料が同一または類似であること、(ろ)製造業者、販売業者が同一であること(従つて同一業者により取り扱われ、同一店舗に陳列されることまたはその可能性の多いこと)、及び(は)同一または類似の用途に使用されること(すなわち顧客の使用目的に対し、品物が変更されてもその目的にそうものであること、)の諸条件にかなう商品は原則として類似商品となすべきである。そして、餠とその他の旧第四三類所属の商品とは原材料が同一であり、同一業者によつて製造販売され、同一店舗に陳列される可能性があり、さらに用途においてもほぼ同じ目的に使用されるのであるから、両者は類似商品であるというべきである。

以上のとおりであつて、審決には原告主張の如き違法は存しない。

三、なお、被告は第一商標のほか第二商標を引用して法二条一項一〇号違反を理由に本件登録の無効の審判を請求したこと原告主張の如くであり、右第二商標は訴外合名会社熊内商店の有するもので、第一商標と同一熊様からなり、原告主張の如き指定商品をもつて、昭和一一年三月一三日登録され昭和三一年三月一三日存続期間の満了によつて消滅したものであり、かように右商標は他人の所有に属するものであつても被告はすでに久しく「三国一」なる商標を使用して来ているのであるから、本件商標の登録の無効を請求し得べき利害関係人であり、そして右請求は認容せらるべきであるのに、審決はこれについて、商標権者たる右会社が昭和一四年一一月二五日付で清算結了したことは明らかであるから第二商標の商標権は同日消滅したものであつて、これを引用しての被告の右請求は理由がないとした。しかし、第二商標の登録原簿には明らかに前記の期間満了による抹消登録の記載がなされているし、もし原告主張の如く右訴外会社がすでに昭和一四年一一月二五日解散による清算の結了によつて消滅した事実があるとしても、同会社から誰かが商標権の譲渡を受けて移転登録の手続をしないで商標の使用をしているということもあるので、右清算の結了によつて直ちにそれが消滅するとすることはできないから、右商標による請求によつて本件商標の登録は無効とせらるべきである。

第四、被告の右三の主張に対する原告の主張

被告の引用する第二商標は訴外合名会社熊内商店のものではないから、被告はこれによつて本件商標の登録の無効を請求する権利はないし、また右商標の所有者であつた右会社は昭和一四年一一月二五日解散による清算の結了によつて消滅したのであるから、この時に右商標の商標権も消滅したものであり従つて右商標による被告の請求は排斥さるべきである。

第五、証拠≪省略≫

理由

請求原因第一、二項の事実及び第三項のうち原告主張の日、主張の如き審決がなされたことは当事者間に争なく、審決書の謄本が原告主張の日原告に送達されたことは被告の明らかに争わないところであり、また第一商標が「三国一」の文字を活字体で縦書し、その右側に「サンコクイチ」と小さく振仮名してなり、昭和一一年九月二日旧第四三類餠を指定商品として登録され、昭和三一年九月二日存続期間の満了によつて消滅したものであることも当事者双方の主張に徴し、その間に争の存しないところと認められる。

以下原告が右審決を違法であるとする請求原因四(1)ないし(3)の主張について判断する。

その(1)について。

およそ商標登録が法二条一項一〇号に違反するや否やは登録時を標準として判断すべきところ、権利の一部の放棄である指定商品一部の放棄なる行為は性質上その時から将来に向つて商標権にかかる指定商品中放棄された分を除外する効力を生ずるに止まるもので、登録の時に遡つて放棄された商品が指定商品でなかつたものとする効力を有するものではないから、本件において餠を指定商品とする第一商標が昭和三一年九月二日失効したものであるのに、その失効後一年以内の昭和三二年二月二三日に旧第四三類菓子及び麺麭の類全部を指定商品として本件商標が登録されたものである以上、その後たとえ審決前に右指定商品中餠及びその類似商品につきその放棄がなされたからといつて、その登録が法二条一項一〇号に違反してせられたものであることには何等の影響もないものというべく、原告のこの点の主張は理由がない。

その(2)について

原告は、被告は第一商標の登録失効前の一年を含めての期間を通じて商品求肥団子に「三国一」なる商標を使用したのにすぎないとし(この事実関係自体は、被告も、その主張に徴しあえて争わないところといえる。)この事実から被告は右失効登録商標についてはその失効前一年以上類似商標を指定商品類似の商品に使用したのにとどまり、失効登録商標そのものを指定商品そのものに使用したことにはならないと主張する。しかし、求肥なるものは右商標の指定商品たる餠としいて仔細に比較分別すれば、その原料、製法等にいくばくかの差を見ないではないにしても、用途、形状、取引状態等両者殆んど同一であつて、求肥餠などの呼名が示唆するように取引の実状、取引の通念からすれば、求肥は餠の一種であるとするのが相当であるし、また「三国一」の文字に「サンコクイチ」と普通の呼名を小さく振仮名してなる文字商標たる右第一商標においては、その要部は「三国一」の文字にあるものとなすべく、そしてかような商標において要部でない「サンコクイチ」の振仮名を略して右の要部、本件部分たる「三国一」の文字の部分のみを商標として使用するのは、その使用者の主観的意図から見ても、またこれを客観的に見るとしても、使用者において当該商標の使用を放棄し、これを使用していないものとは到底解し得ないところであつて、法二条一項一〇号但書の適用を排除する商標そのものの使用であるとするのが相当であるから、原告主張の被告の第一商標に関する使用状況は、単に類似商品に使用したものとなすべきではなく、商標そのものを指定商品そのものに使用したものとするのが相当であつて、本件につき右但書の適用ありとする原告の主張も理由がない。

その(3)について。

原告はこの主張でいろいろの主張をするのであるが、要は、旧第四三類の菓子及びパンの類に属する商品中に餠及びその類似品以外の商品があるかどうか、すなわち、右類別所属の商品から餠及びその類似品を除くとして、なお残り得る商品があるかどうかである。これは右四三類所属の商品について各個にこれを検討するを要する問題であると共に、前記旧商標法施行規則第一五条第四三類の規定において、……餠、砂糖漬、炒豆等とせられていることからも見られるとおり、必ずしも右第四三類において具体的に表示せられた商品だけでなく、広く右類別に属すべき商品の全部について検討を要することがらであつて、このことがら自体の性質からいつても、残余の商品なきを保し難いというのは外はないと共に、具体的表示の商品にあつてもその全部が餠の類似商品であるともいい切れない。従つて審決が、今日における取引の実情に照らし、餠は菓子及びパンの類に属する総ての商品と生産者および販売者を共通にするものと解すべきものとして、餠およびその類似品以外には右四三類所属の商品はないものの如くに解して、その前提に立つて、餠及びその類似商品以外の指定商品についてまで本件商標の登録全部を無効としたのは失当というの外はない。原告の右(3)の主張は理由があり、この点において本件審決は違法であつて取消を免れないものというべきである。

おわりに、被告の第二商標による請求について判断する。

第二商標が訴外合名会社熊内商店の所有するもので、第一商標と同一の熊様からなり、原告の主張の如き指定商品をもつて昭和一一年三月一三日登録されたものであること及び審決が被告主張の如く判断したことは双方の主張に徴してその間に争の存しないところといえる。原告は第二商標は被告のものでないから被告はこれによつて本件登録の無効を請求する権利はないというが、被告が「三国一」なる商標を付した商品を取り扱う者であることさきにみたとおりであるから、被告には右請求をなすべき正当の利害関係があるというべきである。しかるところ、成立に争なき甲第一七号証によれば、第二商標の商標権者であつた右訴外会社は原告主張の如く昭和一四年一一月二五日解散による清算の結了によつて消滅したことが認められるから右商標権も同法一三条により消滅したものと認むべきである。成立に争なき乙第二号証の一によれば、第二商標につき被告主張の如き登録がなされていることが認められるが、これを以て右認定を覆すに由なく、また被告は右商標が他人に譲渡されて前記訴外会社の清算結了後も存続していたこともあり得る旨主張するが、かかる事実を認むべき証拠はないのみならず、被告は第二商標を右訴外会社所有のものとして、引用しているのであつて、右主張はとうてい採用できない。従つて前記の日に消滅した第二商標により昭和三二年二月二三日なされた本件登録の無効を求める被告の請求は理由なきものというべく、審決のこの部分は維持せらるべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文の如く判決する。(裁判長裁判官山下朝一 裁判官多田貞治 古原勇雄)

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